お願いだから、つかまえて
「うお、やった! あの、理紗さんは、独身ですよね。彼氏いないんすか? 俺、アタックしてもいいですか?」
あーっ…
しまった、気づくのが遅かった。
また友理奈ちゃんに怒られる…
「いや、えーっとね…」
「馬鹿、高梨、宮前さんは矢田さんのだぞ。命知らずなことすんな!」
ちょっと離れた席から先輩社員が大きい声でどやしてくる。
「いや、あの…」
「マジっすか! ライバル矢田さんすか! こえぇ!」
視界の端から友理奈ちゃんが飛んでくるのが見えた。いや、でもいくら友理奈ちゃんでも、これをフォローするのは無理だろう…
あー、どうしたもんか。
頭を抱えそうになっていたら、頭上から涼し気な声が降ってきた。
「別れたよ。」
えっ?
「修吾!」
見上げると、修吾がジョッキを持って移動してきたところで。
仕事中と変わらず、冷静沈着な面持ちで私の隣にすとんと腰を下ろした。
その一瞬は、周囲が水を打ったように静まり返っていて。
「えええええーーっ?!?!」
悲鳴が爆発した。
あああー、なんてことだ…
ガックリした私をよそに、どよめきが広がっていく。
え、何何? 矢田さんと宮前さん、別れたんだって。えー、ウッソー!……
「いつですか?!」
「2ヶ月くらい前かな。な?」
「そ、そうだね。もうそんなに経つんだ…」
「いつまでも隠しとくのも変だし、いいだろ、このタイミングで。」
修吾がぽんぽん、と私の頭を軽く叩く。
いや、いいけど…いいんだけど…
「なんで別れたんですか?!」
「大人には色々あんだよ、察せよ。」
不躾な部下の質問を修吾はあっさりかわす。