お願いだから、つかまえて
私の視線を辿って、いつの間にか隣に長戸さんが居ることに気がついた、フリをして。
友理奈ちゃんは鼻で笑った。
「あぁ、長戸さん、いたのー?」
「いました。」
友理奈ちゃんがどこまで本気なのかわからないけど、一番の目的は相変わらず、"長戸潰し"なんだろう…
「え、長戸さんは別に関係ないよねー? 私が誰を好きになってもいいよねえ?」
「矢田さんはあなたみたいな人、好きじゃないと思いますけど。」
「そうだよねえ、理紗さんのこと大好きだったもんね、矢田さんは、理紗さんみたいな、美人で、仕事ができて、気が利いて、話しやすくて、長戸さんとか私とは全然違う人がタイプですもんねえー?」
「おい…勘弁しろよ。」
バチバチ、女のバトルが勃発している。
怖い。この謎に複雑になってしまった恋愛相関図から抜け出したい。
そろーっと立ち上がり、お手洗いに逃げた。
洗面台の鏡の前で深いため息をつく。
修吾、優しいな。それとなく皆が気まずくならないように、私が悪者にならないように、立ち回ってくれた。後でちゃんとお礼言わなくちゃ。
仕事でも、今まで通り、スムーズに関わってくれて。すごく、やりやすい。
幸せになってくれるといいんだけど。私がそんなこと言うわけにいかないし、私ができることは何もない。
戻るの、嫌だなー、と思っていたら、スマホが震えた。
「あ、理紗? 今日飲み会だって言ってたよね。僕打ち合わせで結構近くにいるみたいなんだけど、一緒に帰れる?」