お願いだから、つかまえて
あー、怜士くんの声を聞いたらなんだか気が抜けた。
ずるずるっ…としゃがみ込んで床のタイルに何度目かのため息を、また吐いた。
「怜士くーん…」
「え。どうしたの。声、疲れてる。」
「もー疲れたあ。帰りたい…」
「帰ろうよ。」
「でもこっち、いつ終わるか時間わかんないから…先に帰ってて。」
「いや、でも結構心配になるレベルの声だけど。飲み過ぎてない? 一人で帰れる?」
「うん。がんばる。大丈夫…」
通話を切って立ち上がり、鏡を見ると、我ながら情けない顔をしていた。
一応主役なのに、これはさすがにまずい。
しゃんとしなきゃ。
気合いを入れてお手洗いのドアを開けたのに、すぐそこの廊下に長戸さんが立っていた。
「うっ。」
「うっ、て。」
可愛い顔をして長戸さんは相変わらず迫力のある目力だ。
「いくら先輩でも、失礼じゃないですか?」
「ごめん…」
「理紗さんて、見た感じと印象違いますよね。」
「そ、そう…?」
「なんかもっと自信満々で、高飛車な人かと思ってました。」
「………」
どう受け取ったらいいのか…
「矢田さんを振るなんて、信じられない。」
「…ね。」
「ね、って。」
「あの、誓って言うけど、修吾に悪いとこは全然ない。ただただ私が今の…付き合ってる人を、すごく好きになっちゃっただけで。だから長戸さんが修吾ともし付き合うことになったとしたら、幸せになれると思う。から…」
から、なんなんだ。
何を言いたいんだか自分でもわからない。