お願いだから、つかまえて
「…実はさ、珍しいよね、香苗がそこまで本気なのってさ。」
「えー?」
アイスティーのストローをカラカラとかき回しているその指先のネイルも、塗り直してきている。ごく自然なヌーディピンク。家事もきちんとやれそうな、男性に好印象な手。彼女は本当に、ぬかりない。
「この人だってピンと来たって言ってたじゃない? そういうこと、ありそうでなかったよね。今までは流れに乗ってきた感じで。」
「…言われてみれば、そうかも。」
「だから香苗がピンと来たっていうならそうなんだと思う。きっと山園さんと結婚するんだと思う。」
香苗は一瞬固まった。
「…もー、これだから理紗って大好き! 愛してる! ありがとう!!」
「いやありがとうっていうか…ただ所見を述べただけだけど…」
「そういうとこよ! 理紗を選ぶなんて、矢田さん見る目あるわ!」
「いや、うん…」
確かに、香苗のように、ピンと来た、ということは、修吾に対してはないかもしれない。
だけど、そんなことが誰にでもあるとは思えないし。
私は恋愛に関してはあまり勘が働くほうだとはいえないし。
修吾が私を見つけてくれて、愛してくれたなら、私もそんな彼を愛していこうと思う。
彼は信頼できる人だし、私は間違っていないと思える。彼が待ってと言うのなら、私は待てる。
それで満ち足りている。
恋愛の形、結婚の形。
そんなものは人それぞれで、私は私の形を見つけられたんだと、思っている。
「そろそろ行こっか?」
付き合いの長い女の私なんか悩殺してどうするだろう、と思うくらい、にっこり笑った香苗は綺麗で。
改めて、いくつになっても恋って偉大なんだなあと思い知らされる。
私も、そうだといいな。
修吾の隣に居ることで、何割り増しかで、綺麗に見えているといいな。
そうしたらきっと修吾も、喜んでくれるだろうから。