お願いだから、つかまえて
二軒目だー! と騒ぐグループをどうやって撒こうか、と悩みながら、皆に続いて外に出た。
夏は全然終わる気配がなくて、夜が更けてもうだるほど暑い。
「…あ。」
目の前のガードレールに腰かけて、俯いていた男の人が顔を上げて、こっちを見た。
夜風に黒髪がなびいて、端正な顔が街のネオンに照らされる。
「理紗。」
「あー! 佐々木さーん!」
私より先に友理奈ちゃんが声をかけた。
「あ、どうも。」
「…待っててくれたの?」
え、誰? やば、カッコイイ。宮前さんの彼氏? えー! お迎え? うわ、さすが宮前さん…
…周りがざわついている。
えっ、どれ?! と言っている高梨くんの声も聞こえてくる。
そういえば、今日は打ち合わせがあるからと怜士くんはスーツを着て家を出ていた。
ということは、脚の長さが存分に活かされるわけで。上着はもう脱いで、きれいについた筋肉で適度に張った、白いシャツの袖をまくっている。
眼鏡は、新しく一緒に選んだ、銀のスタイリッシュなフレームのものに変えていて。
…うん。今日は、人目を惹く日だ。
打ち合わせという苦手分野の仕事をこなしてきたせいか、疲れていて、その物憂げな空気がまた彼をセクシーに見せている。
本人は、そんなことは全く知らず、自分が騒がれていることにも気づいていない。
「ちょっとやっぱりあれは心配で…」
と言いながらこちらに歩み寄ってくる。ひそやかに、きゃーっと上がる黄色い声も、たぶん聞こえていない。
「オイなんだ、後ろつっかえてるぞ…」
修吾が後ろからそう声をかけながら進んできて、怜士くんを見つけてぽかんとした。
それからふっと苦笑して、やがて本当の笑顔になって。