お願いだから、つかまえて
「たっだいまーあ。」
私は家に着くなりソファに身を投げだした。
「お疲れ。」
後から入ってきた怜士くんがそんな私の額にキスをひとつ降らせてから、寝室に行く。
「理紗、お風呂は?」
「うーん…後でー…」
「…お茶淹れる?」
「怜士くん、かみさま…」
お祖母ちゃんが退院してから、私達は2LDKのマンションを借りて、一緒に住み始めた。
怜士くんと結婚するつもりだと言ったらもちろんお祖母ちゃんは大賛成で、年寄扱いするな、一人で暮らせる、と言い張った。
それでも心配な私のために、怜士くんは私の実家から一駅しか離れていないところの物件を見つけてきてくれたので、私はちょこちょこお祖母ちゃんの顔を見に帰ることができている。
「はい。」
「ありがとう…怜士くんもお疲れさま。打ち合わせ、うまくいった?」
「うん、まあ…僕は実際プログラムの説明をするだけで、あとは同行してる人がうまいことプレゼンしてくれるんだけど。」
よっぽど着心地が悪かったのか、怜士くんはいつものだらっとした部屋着に着替えてきている。
「あのさっきの人さ。」
「へ?」
「いや、なんでもない。」
隣に座って、怜士くんはマグカップから紅茶をすすりながら何か言いたげだ。
「え、何? 話して。」
私は起き上がった。こうしてリビングで話す時間を大切にしようと私は心がけている。
「いや、そんな正面から見られるほどのことでもないんだけど…」
「なんでも話して。」
「いや…さっきの人も、理紗に気があるのかなと…」
さっきの人…?
私がぼんやりした顔をしたら、怜士くんがぼそぼそと付け足した。
「振られた人同士とか、言ってたから…」
「…あー! 高梨くん!」