お願いだから、つかまえて
やっと思い当って私は大きな声で言った。
「あー、なんかちょっといいなと思ってくれてたみたいだけどサクッとなかったことになった! 全然大丈夫。」
「やっぱり…」
「え、そんなの気になるの? 嬉しいけど、あの子まだ若いし軽い感じだし何にもないよ。」
「気になるっていうか…」
怜士くんはじとっと私を見る。え、何、その目つき。初めて見た。
「理紗はちょっと自覚が足りないと思う。今日も暑いのはわかるけど、そんなに腕出して…あんまり他の人に隙見せないでほしいんだけど…」
「………」
自覚が、足りない。
デジャヴだ。
修吾にも言われたセリフだったし。友理奈ちゃんも言っていた気がする。
「いや、あの…え、でも、腕って、こんなのもアウト?」
私は自分の着ているノースリーブのブラウスを見る。
「アウトっていうか…似合ってるけど…」
怜士くんはため息をついて、私の腕を撫でる。
「そんなの見たら、触りたくなるし…」
それからそのまま腕を引っ張って、二の腕から肩にかけて、唇を這わせた。
ゾク、と甘い痺れが走って、あやうく声をあげるところだった。
「…うん。やっぱり早いほうがいいな、だから。」
襲われるのかと思ったら、怜士くんはそう呟いて。
すっと立ち上がると、彼の仕事部屋に充てている一室に引っ込んだ。
取り残された私は、うーん、自覚かあ、でもそんなこと言ったら、怜士くんのほうが全然足りなんじゃないの? とか、早いほうがって、何が? とか。
もうくたくただったから、そんなようなことをつらつらと、思うような思わないような、ぼーっとした状態になっていた。
だから、不意打ちだった。
「はい、これ。」