お願いだから、つかまえて
私の手を掴んでひっくり返して、ぽん、とそこに怜士くんが置いた、それは。
「え、…あ。」
小さなビロードの小箱。
「嘘…」
間の抜けた声が出てしまった。
「開けて、とりあえず。気に入るか、緊張してるから。気に入らなかったら、買いなおすから。」
いや、開ける前にそんな言わなくても。
気に入るし、絶対!!
開けたら、きらっとダイヤが光る、シンプルな、それは勿論、エンゲージリングだった。
「…可愛い。キレイ。大好き。」
私は勢いよく怜士くんに抱きついた。
抱きとめてくれた怜士くんの心臓は、びっくりするくらい速く波打っていた。
そんな緊張しなくたって。
「今更だけど、結婚してくれる?」
「うん! する!」
「…ああ、よかった…」
怜士くんの身体から一気に力が抜けて、頭が私の首元にとん、と落ちてきた。
「結婚指輪は一緒に買いに行こう。」
「うん。行く。」
「理紗。」
「はい。」
「理紗…」
心底から安堵した、深い吐息混じりの声で私の名前を繰り返す、彼が。
心の中でなんて言ったのか、わかっていたけど。
声に出して、言って。
「怜士くん。」
「うん。」
「愛してるって言って。」
「………」
嫌そうな顔をしているのが、見えなくてもわかる。
知らずに意外と甘いこと言うくせに、そういうのは苦手なの、わかってる。
だけどこんな時くらい、言ってよ。
私は彼の身体引き離して、顔を間近で見つめた。
ずるいくらい綺麗な顔から、眼鏡を引き抜いて。
何度も口づけた唇に、また触れる。
怜士くんはすぐに応えてくれて、私たちは深く、甘く、とろけるようなキスをする。
名残惜しげに離れて、怜士くんはもう一度求めて唇を寄せてきたけれど。
「ねえ、言って。」
「………」
「ねえ。」
観念したように、怜士くんは両目を閉じた。
「…愛してる。」
それからすぐにまた、永遠にも思えるような、長い、幸せなキスをした。
終わり