お願いだから、つかまえて
修吾
俺の周辺は、最近やたらと騒がしい。
理紗と別れたと知られてから、高梨には同類扱いされ、懐かれるし。
一度告白を断ったはずの長戸は何かと接触を図ってくる。
おまけに、前田までもが何を思ってか度々飲みに誘ってくるようになって、白々しい憐憫の目を向けてきながらちょっかいをかけてくる。
「まあ慕われるのはいいことじゃない。」
なんてことを軽く言ってくるのは、他でもない、理紗だ。
「あの前田と長戸の小競り合いはなんとかなんないのか? うるさくてかなわない。」
「んー…」
会議が終わり、散らかっているコップを集めながら、理紗は少し考えるように視線を宙に彷徨わせた。
「二人とも理紗信者なんだろ? お前がなんとかしろよ。」
入社以来、勝手に全面的に理紗の味方についていた前田はともかくとして、数か月前理紗を罵倒しあまつさえビンタしようとした長戸までもが、今や理紗の後をついて回っている。
まあ、何のフィルターも通さず自分の存在を懐に受け入れてくれてしまう理紗の傍にいられる安心感は、俺が一番よく知っている。何も不思議なことではないが。
「まあでも、あれで二人は仲良しだから。コミュニケーションと思って。」
「あれが? 削り合ってるようにしか見えないけどな。」
「うーん、まだ今はね。」
困ったように微笑んだ顔は、相変わらず俺の心臓を射抜いてくる。
まったく、この笑顔が今ではもう、俺のものではないなんて。
俺は目を逸らして苦々しい思いを噛み締める。
顔からスタイルから性格から、何もかもがどストライクで、なりふり構わず手に入れたはずだったのに、突然現れた男に横から掻っ攫われた。
あの悔しさは、今でもじりじりと俺のプライドを焼き続けている。