お願いだから、つかまえて
「もしもし?」
「あっ理紗! ねえごめん一生のお願い!」
「えぇ? もう、何?」
「佐々木くんからあたしの腕時計受け取って〜!」
「はぁ?」
私は素っ頓狂な声をあげた。
「なんで私が…山園さん同じ会社なんだから、受け取ってもらえばいいじゃない。」
「それが、拓哉くん、明日から出張らしくて、バタバタなのよ。」
「た、拓哉くん…」
「あ、あたしたち付き合うことになったんだけど、まあそれはゆっくり話すけどー!」
その話がメインじゃないのか…
私は脱力して台所の椅子に座り込んだ。
「じゃ、自分で行きなさいよ。」
「それが、あたし日曜だっていうのに、これから会社いかないといけないのよ! バカな! 後輩の! ミスの尻拭いで!
ほらあたし昨日全力で拓哉くんとお近づきになってたから、会社の人達の連絡ガン無視してたわけよ。そしたら今日こういうことになって…」
「本当に、あなたは愛すべき馬鹿ですねえ…」
通りで、通話越しにカツカツとヒールの音が聞こえるわけだ。
「何よー、人生かかってんだからそれくらい当然でしょ! しかも勝利を収めてるんだから褒めてほしいくらいよ。」
「ハイハイ。じゃあ、佐々木くんに郵送してもらいな。」
「嫌よ! あのぼーっとした男が、ちゃんとプチプチに包んで送ってくれると思う? 良くてティッシュよ。ヒビでも入ったら冗談じゃないわ。あれ高いんだから!」
「ぼーっとした…」
「ぼーっとしてるじゃん!」
「そ、そうかな…」
「加えて言うとあの男の部屋にずっと置いておくのも不安なのよ! 紛失されそうで!」
「…それは…うん…まあ…」