お願いだから、つかまえて
よくわからない。
佐々木くんは私にとってかなり未知な人で、正直、理紗が何をそんなに気に入って、矢田さんと別れてまで付き合いだしたのか、さっぱりわからない。
見た目でいえば、理紗と付き合うようになってから、野暮ったい眼鏡がスタイリッシュになって、着ている服も心なしかよれよれしていなくなり、髪もわりとまめに切りに行っているようで、前よりは遥かに素材が活きるようにはなってきている。
拓哉くんによれば、仕事もかなりデキるらしい。
だけど、相変わらず喋り方はぼそぼそしているし、全然こっちの顔は見ようとしないし(失礼しちゃう!)、誘えばフットワーク軽く理紗と一緒に飲みに来るけど、別に楽しそうに見えない。
一体どこがいいの?
わからないけど、二人を見ているとお互いとても肩の力が抜けていて、それでいてお互いを思いやっているのが伝わってくる。
「幸せそうだから、いいけどー…」
「うんうん、幸せそうだよ、佐々木くんも。」
「そーなの? あの人に幸せそうとか不幸せそうとか、あるの?」
「あるよ、よーく見てると。僕も表情見分けられるようになってきたよ、だんだん。」
「へえー…」
そうなんだ。私もわかるようになるかな。
「まあ、僕も幸せだけどね。」
ソファに座りながら、さらっと拓哉くんがそんなことを言ってくれたから、私は一気にテンションが上がって、拓哉くんの身体に飛び乗った。
「そうなの? 私といて、幸せ?」
「うん。」
満面の笑みで頷いてくれる。
もうほんとに、大好き!
頬を彼の胸に擦り寄せると、きれいな手で私の頭をぽんぽんしてくれる。
本当に、拓哉くんと出逢えたことは幸運な奇跡だ。
初めて会ったのは、友達がセッティングしてくれた合コンの席だった。
大手のIT会社の社員たちとの合コンと聞いていたから、私は息巻いて一分の隙もなくお洒落をして行ったのだけれど、
拓哉くんは欠員を埋めるために人数合わせで当日無理やり引っ張られて来ていた。