お願いだから、つかまえて

たくさん恋をして、その数だけ破れて、泣いて。
全然結婚できないから、いつの間にか仕事にシャカリキになっていれば、嫌な思いをすることもあったし、その都度身につける予定もなかったはずの処世術や、対人スキルを磨かれて。
だけど意地で身だしなみはいつも整えて、綺麗でいることに女のプライドをかけて。
元々気が強いけれど、歯を食いしばる度、また打たれ強くなって。

夢は華やかなお嫁さんだったはずなのに。
こんなはずじゃなかったのに。
と思っていた私の人生は、すべて必要で正しかったのだと、拓哉くんとの日々が証明してくれる。
全部、彼と生きていく為だったんだって。
私は本気で信じている。

だから、身に着けてきたことの全てを出し惜しみせずに駆使して、私は幸せであり続けるのよ。

と、密かに決意を新たにしていた大好きな人の腕の中で。

「香苗さ…少し検討してほしいんだけど。」

またひとつ、運命がカチッと動こうとする。

「なーに?」
「2、3年後になると思うけど、僕が実家を継ぐことになったら、今の仕事を辞めて、僕のサポートに回ってくれないか?」

わお。この年になって全然違う分野に飛び込めって言うの?
だけど、付き合いだした頃から、そんな気はしていた。

「母も、香苗のことを気に入ってるし。僕は僕のやり方で事業を成功させたいと思ってるから、うちにとっては大きな方向転換になると思う。そういう時、理解して手伝ってくれる人がいたら、心強いんだ。」
「うん、わかった。」
「えっ?」
「いいよ。」
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