お願いだから、つかまえて
服の上から肩、細い首筋を通り、耳を撫で、頬に辿り着く。
お祖母さんが倒れてから目に見えて痩けていた頬も、今ではかすかな膨らみを取り戻していて、僕はひそかに安堵する。
あの頃の理紗は、目を離すと消えてしまいそうだった。僕は不安だった。一見普段通りに過ごしていたけれど…
いや、彼女をよく知ってみると、毎日フルで働いている上に、矢田さんや香苗さんや、会社の後輩(…名前は忘れた)に立て続けに会っていたことはイレギュラーな過ごし方だったのだとわかる。
その隙間にお祖母さんのお見舞いとお世話を詰め込んでいた。
まともなエネルギーの補填も行えていないのに、消費活動ばかりが激しかった。
(いや…その責任は僕にもある。矢田さんとあんな時に別れ話をしなければならなかったのは間違いなく僕のせいだし、彼女が憔悴しているのはわかりきっていたのに、毎晩求めた…)
それでも彼女は自分が痩せ細っていることに自覚がなかった。陰鬱さはまったくなく、朗らかで楽しそうだった。
まずい、と思って理紗の実家に上がり込んだ。
副業は一旦セーブして、会社の仕事も最小限に留めて理紗のそばについていることにした。
というと純粋な善意に聞こえるだろうけれど、勿論やっとつかまえた理紗と離れている時間が惜しかったのは間違いない。
その日々の居心地の良さといったら、僕の想像を遥かに超えていた。