お願いだから、つかまえて

人を愛することが、こんなにも簡単なことだと、僕は思いもしていなかった。

僕は恋愛体質ではない。

何人かの女の人と付き合ったこともあったけれど、煩わしいことばかりで疲れるだけだった。
付き合うという契約関係にある以上は僕にも義務があると考えて、色々譲歩しているつもりでも、
結局は「私のこと本当に好きなの?」とか「何を考えてるのかわからない」「付き合ってる気がしない」だのなんだの似たようなことを喚かれ、泣かれて、去られた。
いつも告白してくるのは相手の方なのに、100%の確率で振られた。

そして今になってみると、彼女たちの言い分は間違ってはいなかった…つまり、僕は確かに、誰のことも「本当に好き」ではなかった。

いくらなんでも僕にもわかる。僕には何かが決定的に欠けているのだろう。

結婚願望なんてない。それなら無理して誰かと付き合わなくても、一人でいいじゃないか、と思うようになった。

僕は恋愛に向いていないのだ。その証拠に振られた後はいつも開放されて身軽な気分だった。

それが、今はどうだ。
理紗がいない生活なんて、考えられない。

初めて話した時からそうだった。
こんなに自然体で話をしてくれる女の人には今まで出逢ったことがなかった。
まず、華やかさに執念深い、威圧感を与えてくるような化粧をしていなかった。それだけでも話しやすさは全然違う。
< 189 / 194 >

この作品をシェア

pagetop