お願いだから、つかまえて
佐々木くんの、本やら書類やらが積み上がったワンルームを思い返して、思わず頷いてしまう。
ベッドの壁側にはこっそりと言えないくらいに服もぐちゃぐちゃに重なっていた。私が彼女だったら畳んでしまってあげたいくらいだった。
来客時でああなんだから、普段はもっとひどいんだろう。
「理紗んち、佐々木くんちからそう遠くもないじゃない?! ね、お願い!」
「ううううん…」
私は複雑な気分だ。これが佐々木くんでなければ、別に良いのだ。つまり、これから佐々木くんに会える、というのが…ちょっと嬉しかったりするのが、問題なわけで。
「理紗〜〜!!」
「…わかったわかった、わかりました。」
「あーりーがーとー! じゃ、よろしくね、今度飲みに行こうね奢るから! ゆっくり報告したいし!」
「あーハイハイ…頑張ってね、仕事。」
「うん、ありがと、じゃあね!」
通話を切ると、お祖母ちゃんがニコニコしてこっちを見ていた。
「香苗ちゃん?」
「そう。」
「また連れておいで。」
お祖母ちゃんと香苗は仲が良い。大学時代は香苗はよくうちに泊まりに来て、お祖母ちゃんが作ってくれた朝ご飯を食べ、お祖母ちゃんとさかんにお喋りをしていった。
香苗が帰った後のお祖母ちゃんはいつだって上機嫌だったものだ。
「…そうだね。言っとくよ。香苗、結婚するかもしれない。まだわかんないけど」
あら〜お祝いしないとね、とお祖母ちゃんが嬉しそうに笑う。
私が結婚したら、もっと喜ぶんだろうな。
トムヤムクンが入ったタッパーをぼんやり眺めながら、そんなことを思った。