お願いだから、つかまえて
まだ覚醒しきれていないのか、とろんとした目つきでお茶を飲んでいたかと思えば、また肩に頭をぽと、と乗せてくる。
理紗はいつも、自分を律していて、それでいて無理がなく、絶妙なバランスを保っている。
それが彼女の魅力的な佇まいではあるけれど、日を追うにつれ、こうして甘えてくれるようになった。
それはとても嬉しい。理紗は常に誰に対しても程よく社交的だから、初めから心を開かれている感じはあった。
だけどこうして僕にだけ見せる表情を増やしてくれると、僕にも人並みに独占欲があったようだ、とその嬉しさで思い知る。
「あ、大変。指輪、したまんまだった。」
目が覚めたようだ。その声はいくぶんはっきりしていた。
理紗は僕が贈った婚約指輪を失くすのを怖がり、時々外出の時にはめる以外はいつも寝室の棚に、大切そうに保管している。
「いいよ、後でで。」
「ダメだよ、どこにやったかわかんなくなっちゃうもん。顔洗う前にしまわないと。」
「いいって。」
「なんで? …ん、」
今は少しでも離れるのが嫌だからだとはとても僕には言えないから、キスで引き止める。
一度くっつくと、どうしても離れ難くなるのは問題だ。
「んん…何? どうしたの?」
少し困惑した顔で僕を見る。
可愛い。
どちらかというと、可愛いというよりは、美人だという印象が強かったが、ふと見せるこういう表情は、たまらなく可愛い。
もう一度、深くキスをする。
恋愛に辟易としていたのは、セックスに対する執着がなかったのも一因しているはずだが、理紗と付き合い始めてからの僕は完全に箍が外れている。