お願いだから、つかまえて

だけど、耳に届いたのは意外な言葉だった。

「あんなキスしたのに、してくれないの? どうしてくれるの、もう?」
「……え。」

理紗は僕が濡らしてしまった唇を尖らせる。

「怜士だって、こんなになってるのに。」
「っ、う、…」

膨れ上がった僕の欲望の塊を、服の上からつうっと撫でられ、不覚にも声が漏れた。

「怜士くんて、時々ずるいよね。」
「違…」
「もう結婚したし、私だってやられっぱなしじゃないからね。」

言いながら、理紗は僕のシャツのボタンをひとつひとつ外していき、腹筋から胸へとなまめかしい手つきで撫で上げた。

「理紗…」

それから、鎖骨を舌でねっとりと舐められた。
ゾクゾクッ、と震えるような官能が、背筋を走り抜けた。

そんな。
疲れてるくせに、僕を悩殺して、どうするんだ?

「……知らないよ、今晩寝られなくても。」

たまらずその身体にのしかかり、耳元で低く囁くと、理紗は軽く息を呑んだ。

「…望むところ。」

もう突き動かされるようにして、僕は無言でその身体を抱き上げ、寝室のベッドに身体を横たえた。
薬指に婚約指輪と結婚指輪がはまる左手を、指を絡ませて右手で握ると、理紗もそっと握り返してきた。

そう、僕達は、さっき入籍してきた。
彼女が僕のものだということが、これで僕の勘違いでもエゴでもなく、公然のこととなったことに、僕は安堵している。

「…知らないよ、本当に。」

僕はもう一度念を押す。
これ以上進んだら、戻れる自信が欠片もない。

理紗は、そんな僕の顔から眼鏡を引き抜き、首の後ろに手を添えると、ぐっと引き寄せた。

「…いいから、早く抱いて。」

さっきのお返しとばかりに耳元で囁かれた色っぽい声に、僕は勿論、陥落した。














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