お願いだから、つかまえて
食堂はいつもがやがやしているけれど、最近はより一層混み合っている。
会社に入ったばかりの子たちは、お蕎麦一杯買うのだって、楽しそうだ。
その隅っこのほうに、いつものように私達は席を見つけて向かったのだけれど、その向かいの席に同じ課の新しい女の子が既に座っていたのを見て、友理奈ちゃんが毒づいた。
「なんで休憩中まであの顔見ないといけないんですかね。」
「なんかされたの?」
「は? なんかも何も。理紗さん何も気づかないんですか?」
「何が?」
「…いいです、別に。私はあの女好きじゃないです。」
友理奈ちゃんは先輩の懐に入って可愛がられるのは得意だけど、もしかして年下とのコミュニケーションはあまり得意じゃないんだろうか。
「そんなこと言ってると良い先輩になれませんぞ。」
「私後輩とか部下とかいらないっす。慕われたいとか思わないです。ボッチ万歳です。」
「うわー現代っ子だー、現代っ子がここにいるー、きっとあの子とも気が合うよ心配ないなーい。」
「うわ、ヤなこと言いますね。先輩キライです。」
「えっさっきの感謝はどこへ?」
「ハイ、嘘ですごめんなさいボッチ万歳ですけど理紗さんのことは好きです。」
私達もたいがい楽しそうに見えるだろうなー。
じゃれ合いながら、結局他に席も空いていなかったので、そこに座ることにした。
「あ…お疲れ様です。」
「お疲れ様ー」
定食から顔を上げた彼女の挨拶に、友理奈ちゃんはさっきの仏頂面はどこへやら、私に合わせてにこにこと応じる。
この子は私や友理奈ちゃんのように営業事務ではなく、営業に配属されている子だ。つまり修吾の後輩にあたる。名前はたしか…
「長戸(ながと)さん。」
「ハイ。」
ぱっちりした目を瞬かせて、長戸さんは頷いた。