お願いだから、つかまえて

「仕事、慣れた?」
「いえ、まだ全然…」

なんとなく可愛い子だな。控えめな苦笑は男ウケもよさそう。香苗とは違ったタイプの、女子力が高そうな女の子だ。

「矢田さんの下じゃ大変なんじゃない?」

友理奈ちゃんがあくまでも友好的に話しかける。なんかちょっとその話題は私にも悪意があるんじゃないの? と思って友理奈ちゃんの横顔を見たら、知らんぷりされた。

「あ、いえ。はい、確かに矢田さんは厳しいですけど…でも、優しいと、思います。」

ふうん、と友理奈ちゃんが頷いて、それ以上広げようとしない。おい。自分で振っといてなんなんだそれは。おい!

「…あの。」

私も修吾のこととなるとぽんぽん適当なことも言えない。微妙な沈黙の後、遠慮がちに口を開いたのは長戸さんだった。

「矢田さんて、おいくつなんですか?」
「30だよ。」

反射的に即答してしまった。

「ご結婚、されてないですよね。…彼女とか、いらっしゃるんですか?」
「……」

おっと。
おっとー?

「あーダメダメ、矢田さんは。理紗さんと付き合ってるから!」

そこで友理奈ちゃんがそれはもう嬉しそうに意気揚々と大きい声で言った。
また思わず見ると、今度はちらっとほんの一瞬、目配せをしてきた。

あー、そーいうこと…

「え、そうなんですか…?」

長戸さんの可愛らしい顔に隠しきれず落胆の色が浮かんだ。こんな若い子が、修吾に好意を持つなんて。さっぱり気づかなかった。見てすらいなかったけど…
友理奈ちゃんの不自然なくらいの牽制に、私は感謝よりまず感心してしまった。
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