お願いだから、つかまえて
笑ってしまったのはそのおかしさというより、彼が少し笑顔になってくれて、その笑い方がまたツボだったからだ。
あーヤバイヤバイ、見過ぎないように気をつけなくちゃ。
慌てて気を紛らわそうと適当に口に放り混んだお肉が、ものすごく美味しくて私は目をまん丸にしてしまった。
「うわ、これすごい美味しいですよ! 食べました?」
「あ、よかったです。それ僕が作りました。」
「えええ?!」
よくよく見ると、それはなんのソースもついていないただの鶏の胸肉の薄切りで、でもしっとりしていて、一体どういう味つけをしたのかさっぱりわからなかった。
「どうやって作ったんですか?」
「肉に、味噌と砂糖と醤油とか適当に漬けて、ラップで巻いて二晩くらい寝かすんですよ。」
「ええー、へえーすごい、美味しい…」
「よかったです。よければ、こっちも僕が作りました。」
よかったです、と言いながら、別に嬉しそうな顔をするでもなく。
でも、他にも次々とあちこちのタッパーから私の紙皿におかずを乗っけてくれて、
そのどれもが、本当に美味しかった。
しばらく、このドレッシングはニンニクをすってとか、この唐揚げを揚げる時は胡麻油だけでとか、このキャベツに巻いてあるのはクリームチーズと大葉がポイントだとか、そんな話を聞いて。
「あのう、もしかしてなんですけど。」
「はい?」
「佐々木くんが今日呼ばれたのって、料理要員だったんじゃないですか。」
「ああ…」
やめて、その何気なく眼鏡をくいっと上げる仕草、好みだから!
私の心の叫びなんか聞こえるはずもなく、佐々木くんは軽いため息をついた。
「でしょうねえ…」
「一応、聞きますけど、あの上司の方と親しいんですか?」
「いや、全然…」
「…でしょうねえ…」