お願いだから、つかまえて
…嘘、でしょ…?
どうして?!
それが一体、何秒くらいの間だったのか。
私はその乾いた唇の感触を感じている間、頭の中でぐるぐる色んな疑問が渦巻いて、パニックで固まりきっていた。
…私が…私が、彼の顔を見過ぎていたのが、バレた?
こういうことしてほしいって、思われた?
…いや、そんなはずない。
彼の性格で、何も気づかないフリ、みたいな演技をしていたとも思えない。
そりゃ、男の一人暮らしの部屋で眠りこけてしまったのは、不用心だった。
だけど、今まで一度だって、私達、そんな艶っぽい空気になったことがあった?
一度だって、佐々木くんが…私に、そんな目を向けたことが、あった?
…いや、ない!!
「……」
唇が離れても、私の硬直は解けない。
混乱の極み、だ。
佐々木くんが、伏せた目を上げて、一瞬、私の目をかすめるように見て。
もう一度、唇を重ねようと…
「…ちょ、ちょっとっ…!」
あ、危ない、その私を見た彼の顔に心臓が高鳴ってしまった。普通にもう一度、キスを受け入れてしまうところだった。
「ま、待って、ちょっと…どういうこと…」
「…しないんですか?」
唇が触れるか、触れないかというところで寸止めして、佐々木くんが囁く。
「し、しませ…んんっ!」
言葉を封じ込まれた。
な、な、なんだっていうのっ…
啄むように何度も何度も触れて。
言葉を挟もうとするたび、塞がれて。
ただでさえ覚醒しきれてなくて、その上混乱している頭が、だんだん痺れてきた。
気分もふわふわ、してきて。
なんか、気持ちいー…