お願いだから、つかまえて

昨日、私を抱く直前に放り出した方向を指すと、佐々木くんはそっちを見て、床に見つけたらしく、ベッドから身を乗り出し、手を伸ばした。

その、剥き出しになった、白い背中が、なんていうか、もう。
もう、私の煩悩を煽るの、やめてほしい…

「あの、佐々木、くん…」
「はい。」

眼鏡をかけたら、失礼ながらやっぱり少し野暮ったくなってくれて、私はとりあえず胸のドキドキに歯止めがかかってこっそりほっとする。

「あの、昨晩の、ことなんですが…」
「はい。」

いや、はい、じゃなくて。
いや、話を真面目に聞いてくれるのは嬉しいんだけど。

「あの、言ったとは思うんですが、私、彼氏がおりますもので…」
「はい。」
「一晩の過ちと思って、いいんでしょうか…?」
「…過ちのつもりはないですけど。」
「…は。」

言葉に詰まる。
今気づいたけど、私も、服、着てないし。
なんかすごく間抜けな絵面のような…

「言ったとは思うんですが、私、彼氏が…」
「言ったと思うんですが、それでもいいですよ、別に。」

同じ言い回しを使ってくるあたり佐々木くんのほうがよっぽど余裕ある。ていうか、私は全く同じセリフを繰り返そうとして、馬鹿なのかな…

「でも、酔ったところを襲ったりして、すみませんでした。」
「いえ、そこまで言うほど酔ってはいなかったんですが…」
「ですよね。言ってみただけです。」
「………」

服…服を、着よう。

私がにわかに散らばった洋服を集めだしたので、それにならって、佐々木くんも服を着始める。
二人共、きちんと服を着たところで、私はベッドの上に正座して、佐々木くんのほうを向く。

「…ではあの、これきりということで、よろしいんでしょうか…?」
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