お願いだから、つかまえて
ベッドから降りて、私の背を超えるほどの高さの本棚に向かう。
確かに本棚は二手に分かれていて、その間にできた窪みのスペースにも、本はギッシリ詰まっていた。そーっと手前の棚を引っ張ると、難なく滑り、横にずっと続いていていた奥側の本たちが現れた。
「おお〜…」
じっくり見ると、確かに話していたあの作家の本もたくさん並んでいた。
ビジネス本とか、自己啓発系の本は一切無くて、全部小説だ。
これは、燃える。
読んだことがあるものも、読んでみたいものも、たくさんあった。
もしこの本棚と先に出逢っていたとしても、会わずして、持ち主のことを私は好きだと思うだろう。
「読みたいのあったら、持ってっていいですよ。」
「うわっ」
いつの間にか真後ろに佐々木くんが立っていた。
「あ、いえ、大丈夫です…」
「こないだ話したあの人のだと、僕としてはこの辺がおすすめですけど。」
私の肩越しに腕を伸ばして、本を何冊か抜き取る。
それ、わざとやってるのかな、天然なのかな。
抱きすくめられるみたいで、ドキドキするから、やめてほしい。なんか、男の人の匂い、するし…今更だけど。
佐々木くんは抜き取った本を、ぽん、と渡して。
「ご飯、できましたけど。と言っても残り物ですけど。」
「あ、はい…」
これ、また返す為に会わないといけないじゃん。
忘れていこうかな。
でも、読みたい…今すぐにでも読みたい。
とりあえず渡された本をベッドの上に置いて、ローテーブルにセットされた朝食を二人で向かい合って食べる。
お味噌汁と、だし巻き卵と、いんげんの胡麻和え、お漬物。
「…あ、おいしい…」
「よかったです。」
出汁からとったお味噌汁が、散々飲んで、…運動…した身体に染みわたって。
「ああ、おいしい〜…」