お願いだから、つかまえて
よかったです、と、佐々木くんが繰り返す。
…なんか私、餌付けにされてない?
いや、そもそも佐々木くんが私を釣ろうとしているのかどうかも、謎だし。
すっかり忘れていたけど、私、昨日から化粧も落とさずひどい顔になってるだろうし、万が一仮に、佐々木くんが私の事を好きでいたくれたとしても、百年の恋も冷めるはず。
わけがわからないのに、居心地は良くて。
いかん、このままだと私、夜までここでだらだらしてしまう。
しかしここまでして頂いて、このままサヨナラというのも。
「…洗い物は、私がしますね。…あと、迷惑だったら、断ってくれて構わないんですが。」
「はい。」
「…一宿一飯の礼ということで、あの。洗濯とか、しても、よろしいでしょうか?」
もう、むずむずして仕方ない。
あのぐちゃぐちゃに丸められた服とか、そこここにかけられてる服とかタオルとか、昨日見た洗面所にも溜まってる洗濯物とか。
もう、どうしても気になる!!
「ああ…それは、助かりますね。」
「いいですか、やっても?」
「よろしくお願いします。」
ぺこりと、佐々木くんが頭を下げた。
ちょっと可愛いんですけど。やめてよ。
もうとりあえず、考えるの、よそう。一回頭を空っぽにして、働いて、家でゆっくり考えよう。
働いてって、浮気相手の部屋だけど。
いいやもう、これ以上突っ込みどころがひとつふたつ増えようが、もう大して変わらない。
というわけで、私は猛然と佐々木くんの部屋を片付け始めた。
洗濯物を洗って干しても、またぐちゃっとそのへんに放られることが目に見えてるので、乾燥機も使っていいですかと許可を得てから、部屋のあちこちから洗ってあるかもしれないけれど、可哀想なことになっている布製品を片っ端からかき集めて、洗濯機にぎゅうぎゅうに詰める。
洗濯機を回している間、今度はキッチンで溜まっている洗い物は全て洗って、ついでにシンクもぴかぴかにする。…シンク用の洗剤がなかったので、食器用の洗剤で。