お願いだから、つかまえて
「修吾…好きだよ。」
口から滑るその言葉は、簡単に修吾を喜ばせる。
私はそうありたいと、願って。好きだよ、と、ごめん、を、また心の中で繰り返した。
「理紗、もうすぐ誕生日だよな。何が欲しい?」
私の髪を撫でながら、修吾が言う。
「うーん…」
プロポーズ。
とか。
婚約指輪。
とか、言っていいのかな。
でも、こんな心境じゃ、それを貰っても喜べない気がした。
「貴金属。高いの。」
「このやろー」
結局笑いではぐらかして、流した。
「その前に、ゴールデンウィークだよ。どうする?」
「そうだよなあ。」
「今からじゃ、どこも予約いっぱいだとは思うけど。近場でどっか行く?」
「俺は理紗と居られればなんでもいい。行きたいところ、ある?」
「うーん…」
私は人混みが苦手だし、修吾は仕事を持ち帰って片付けたいだろう。
どこか旅館にでも行きたかったけど、ねだるほどでもないし。
というか、どちらかというと一人で、ちょっと人里離れたところでゆっくりしたい…
「考えとくね。」
修吾は基本的に仕事がない日は、家で休みたい人だ。たぶん、これはゴールデンウィークも修吾の部屋でだらだらすることになるんだろうな。
旅行とか予約とか、腰が思い割には、会いたがるから。
仕事が趣味みたいなものなので。
佐々木くんのつまらなそうな声を思い出す。
修吾はいつも、仕事のストレスを抱えているから、二人の時はそれをぶつけて、甘えてくる。
それを嫌だと思ったことはないけれど。
あの人はそんなことないんだろうな。
といって、アクティブにどこか出かけたりもしないんだろうけど。
あ、また余計なことを考えていた。
やめよう、本当に。
私は軽く頭を振って、修吾の肩に頭をもたせかけながら、無理やりまどろみに落ちていくーー