お願いだから、つかまえて
「修吾はさ…」
遠慮がちに、慎重に。
「こういうこと、言われたくないと思うけど。…結婚のこと、どう考えてるの?」
修吾が目を上げた。
「…俺、不安にさせてた?」
「ううん、そんなんじゃないけど。」
ほんと信じらんない、という香苗の声が脳裏によぎるけれど、もちろんそんな喧嘩腰で言うつもりもない。
「待つのは、構わないんだけど。もう二年付き合ってて、修吾はどう考えてるのかなって。」
「………」
この答えが聞ければ、最近のもやもやも少し晴れるかもしれない。
修吾は上体を起こして、頭の中を整理している。
「…実はさ、この異動で、俺、昇進の話があったんだ。」
「ああ、うん…ちらっとは、聞いてた。」
もしそれが本当だったら異例のスピード出世だと、噂で耳にした。
でも結局、それは実現しなかった。
「まじ? 知ってたの? 俺、かっこ悪いな。」
「そんなことないよ。昇進しようがしまいが修吾が仕事できることは、みんな知ってるよ。」
修吾はそこで照れくさそうに笑った。
こういう顔は、付き合い始めた時は、けっこう意外で。
可愛い人なんだなと、思ったんだ。
「でも、俺はまだまだだって上に判断されたんだなと思ったら、もっともっと努力しないとと思って。」
「修吾は努力してるよ。昇進だって、修吾の能力だけで決まるわけじゃないでしょ。人事の兼ね合いだってあるし。」
「…ありがとう。…理紗はそうやって、いつも俺に自信を与えてくれる…」
自信を与えようと思って言ったわけじゃなくて、本心だったんだけど。
修吾は心底から安心したように息を吐いた。