お願いだから、つかまえて
「ああでも、正社員になるまでは別れられないですよねえ。どうせ矢田さん、躍起になってくれるんでしょ?」
「…推してくれる、とは言ってたけど…」
「そりゃそうですよねえ。社内恋愛自由だし。とりあえず正社員になってから考えればいいんじゃないですか?」
「それってさ…でも、かなり卑怯じゃない?」
「そんなこと言ってる場合ですか? 28歳独身派遣社員のくせに。」
「うう…」
「そろそろ、結婚か、正社員の座くらいは手に入れておかないとねえ。」
「ううううう…」
「泣かないでくださいよ。ほら飲んで。おじさんビールおかわりー!」
ハイよー、と威勢のいい声が飛んでくる中、私はテーブルに額を乗せてダウンした。
「路頭に迷ってますね〜」
友理奈ちゃんが面白がって笑っている。
「いいよねえ友理奈ちゃんは若くてさあ…正社員で…彼氏もいて…」
「あーでも、あれはそれこそ切り時ですよ。結婚相手じゃないですね。次くらいには決めたいな〜」
そうなんだ…
「あ…私そろそろ戻らないと。」
「え? 会社ですか?」
「うん、修吾がちょっと残業してて。夜食でも持っていっとこうかなって。ここの焼き鳥って詰めてもらえるかな?」
「…良い女ですよね、ほんと。矢田さんが惚れ込むわけですよ。」
「あ…馬鹿にしてます?」
「してないですけど、それで好きじゃないかもなんて、理紗さんもたいがい、鬼ですよ。」
「…だから、好きですよって…」
「あーはいはい。」
友理奈ちゃんに呆れられながら、私は焼き鳥を詰めてもらって、居酒屋を出た。