お願いだから、つかまえて


夜のオフィスはしんとしている。
ところどころでまだ電気が点いていて、人の気配はまだあった。

営業部のフロアまで行くと、明るかったけれど、誰もいなかった。
修吾のデスクを見ると、鞄はまだある。
ということは、トイレか、自販機のところかな。

と思って、廊下の一角に設けてある小さな休憩スペースに向かった。

修吾の姿が自販機越しに見えたので、ビンゴ、と思って、声をかけようとした、のだけど。

「本当に好きなんです、私…」

ひーえーーー…
告白現場だ!
相手の女の子の顔は見えない。

「お願いです、付き合ってください。」

あ、でも、この涙声は、おそらく。
長戸さん、だな…
友理奈ちゃんにほら見ろと言われそうなシチュエーションに出くわしてしまった。
ああどうしよう…下手に動くと、手に持っている焼き鳥が入ったビニール袋がガサガサ言うし。

修吾がどうするのか、見たい気持ちもあったし…

そのまま立ち聞きすることにした。

「…悪いな、俺、彼女いるからさ。」

ちょっと困っている。面と向かってこんなふうに告白されることなんて、なかなかないだろうし。

「宮前さんですよね。」

長戸さんは引き下がらない。
突然自分の名前が出てきてあやうく焼き鳥を落とすところだった。

「…ああ、うん。知ってるなら…」
「宮前さんのどこがいいんですか?」

ひえっ。
とんだ飛び火。怖い。怖い長戸!

「いや、そんなの君に話すことじゃないから。」

もっともだ。修吾の声が硬く、不機嫌になっている。
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