お願いだから、つかまえて
「…だってっ…」
修吾がよろめいた。
抱きつかれたのだ。
「ちょっと長戸さん、あのな。」
修吾が一歩下がったので、自販機の影からその姿が隠れることなく全部現れて、ついでに正面から密着している長戸さんの姿まで見えた。
見えた、ということは、二人がこちらを向けば私のことも見えるわけで。
見えないところまで、気づかれず、焼き鳥を無音で運べるか…
私はゆっくり一歩、横に踏み出す。
「こんなことより、まず仕事をできるようにしような。覚えること、いっぱいあるだろ。」
「それはちゃんとやります。だけど、矢田さんのことばっかり気になるから、ちゃんと気持ち伝えようと思って…」
…もう一歩。よし。
「それは、ありがとう。気持ちは嬉しいよ。」
「宮前さんなんかより、私を選んでください。後悔させませんから!」
宮前さんなんか。
なんかって。オイ長戸。
「俺にはあいつしかいないんだ。ごめんな。」
「じゃあ私二番目でもいいですから!」
胸を。その豊満な胸を押しつけて言うな!
ていうか、食い下がるなあ、長戸さん。諦めないな…
「長戸さん、ほんとに。勘弁してくれ。」
修吾がぐっと長戸さんの両肩を押し戻して。
長戸さんは涙の溜まった目で、修吾を見上げようとして…
「…あ…」
見つかった。
修吾も続いてこっちを見て、さすがに目を丸くしている。
「いや、あの。たまたま…」
焼き鳥を掲げて見せる。
「夜食でも、と…」
この間の抜けた感じ。いかん。いたたまれない。
「あの…ごめんなさい…どうぞ、続けて…」