お願いだから、つかまえて
「ちょ、待て待て待て理紗!!」
逃げようとしたら修吾が慌てて追いかけてきた。
「ごめん、長戸さん、そういうことだから。気をつけて帰れよ!」
長戸さんは薄暗い中、きらきら光る目で私を睨みつけて、敵意を隠そうともしないで。小走りで私のところまで来て、怒鳴った。
「なんなんですか、私の事馬鹿にしてるんですか?!」
「いえ、あの、けしてそのようなことは…」
「いつも余裕で、矢田さんは私のものよって顔して! 見せつけてるんですか?! いい年して、恥ずかしくないんですか! 美人だからって思い上がらないで下さいよ!!」
「…それは、どうも…」
あ、咄嗟に美人てところだけ拾ってしまった。ちょっと嬉しくて。
これじゃ火に油を注ぐだけだ。
「いえ、じゃなくて、えっと…」
長戸さんの両目が燃え上がるように輝いて、右手を振り上げた。嘘でしょ修羅場、平手打ちっ…
「…いい加減にしてくれ。」
手は、私の頬に届くことはなく、修吾に掴まれていた。
「帰れ。」
怖っ…
私が思うくらいだから、長戸さんはもっとだろう。
唇を噛み締めて、走って去っていった。
「…お前なあ。」
それを見送ってから、修吾が呆れたように私を見下ろす。
「彼女なんだから、もっと堂々としてろよ。なんでお前が逃げんの?」
「いや、まあ、それはそうなんですけど…」
こちらにも、後ろめたさというか。
長戸さんの真っ直ぐなアタックをすごいなと思ったり。
私だったら修吾に、ここまでのことができるかしらと思ったり。
……やっぱり修吾は、浮気しないんだなと、思ったり……