お願いだから、つかまえて
香苗が遠慮なく馬鹿ウケして、挙句むせている。
全く…
「ちょっとお手洗い行ってくるね。」
「はあーい。」
いってらっしゃーいと胸をさすりながら言う香苗に、結局は笑ってしまう。
憎めないなあ、ほんとに…
戻ってくると、香苗がしみじみと言った。
「残念だなあー、理紗とふたり同じタイミングで結婚できると思ったのに。」
「あなた先日、私なんか置いていくって言いましたよ。」
「えぇ〜?」
いやそんな、信じられなーいみたいな顔をされても。
薄暗い雰囲気のいいレストランで、私たちは女二人でおしゃれでなディナーを楽しんでいる。
私の終わったばかりの誕生日を祝うという名目で、たぶん香苗はこの報告をする目的もあり。
なんであれ香苗とこうしてゆっくりできるのは、今の私にはとても有り難い時間のように思えた。
やっぱり、リフレッシュできる。
「でも、せめてさ。子ども生む時期は揃えようね? 家庭持つと価値観変わってくるっていうし。価値観揃えて生きていこうねあたしたちは!」
「いやもう山園さんと結婚した時点で経済環境的にたぶんもう価値観のズレは広がっていく一方かと…」
「冷たっ! 理紗、冷たっ!」
香苗が大げさに怯える真似をした。
「…セレブなのは事実なんでしょ、山園さん。大丈夫なの? そっちのご実家のほうとは。」
それは私が唯一懸念していたことだった。
前の婚約者も、彼のご両親とうまくいかなかったと言っていたから。
香苗も冗談ではない私の心配を感じ、真面目な顔になり、頷いた。
「うん、大丈夫、うまくやってる。そりゃ全く気になることがないかといったらそんなことないけど、対処できるよ。拓哉くんも味方でいてくれるし…何かあればちゃんと、話し合える。」