お願いだから、つかまえて

「…うん。そっか。」

それならいい。
何か抱えきれないことができたら、香苗は私に言ってくれるだろうし。
その時支えればいいんだ。今私の出番なんか、ない。
香苗には山園さんがついているんだから。

「…あーあ、寂しいなあ。香苗が私以外の人の手に渡ってしまうのか…」
「やっとそれを言ってくれたわね理紗、じらさないでよ。」
「あのね私達傍目から診たら相当気持ち悪いと思うわ。」
「同感。」

29になったって、私達は箸が転がっても面白いんじゃないかというくらい、二人でいれば、笑って笑って。

ちょっとだけ涙が滲んだ。


食べ終えた料理のお皿を全部下げられたら、あたりの照明がふっと落ちた。

そして軽やかなハッピーバースデーの音楽がオルゴール風のアレンジで流れてきた。

ちっちゃな花火が刺さった可愛いイチゴのケーキが、チョコレートで "Happy Birthday RISA!!" と書かれた白いお皿に乗って運ばれてきて。

なんとなくわかってはいたけど、やっぱり嬉しかった。

「おめでとー、理紗!」
「ありがとー」

おめでとうございます、とウェイターさんや他のお客さんたちにも次々に言ってもらって、それから。

「えっ?」

香苗が目を丸くしている。これは、本当に驚いている時の顔。

同じケーキがもう一つ、やって来た。
そのお皿には、もちろん。

"Happy Engagement KANAE ♡"

と、書かれていた。
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