お願いだから、つかまえて
その後は塩辛いものが食べたくなったと、二軒目は焼き鳥屋になだれ込み、ビールで乾杯から仕切り直した。
さすがに、翌朝目が覚めたら胃がもたれていた。
土曜だから、いいけど。ああ佐々木くんのお味噌汁が飲みたいなあーなんて馬鹿なことを思った。あの朝のお味噌汁、おいしかったな…
「あれっ、香苗…」
私の傍らには香苗が寝ていた。
私も香苗もお酒には滅法強いから、一緒にいるとつい飲み過ぎる。
大学一年の頃、初めての飲み会というやつで、二人最後まで潰れずにいたのが、仲良くなるきっかけだったくらいだし。
だから前後不覚になるようなことはほとんどない…けれど。
浮気じゃなくて、よかった…
と、ちょっとほっとしてしまうくらい、最近の自分の素行には自信がないのだった。…情けない。
香苗の着ているボルドー色の、シルク混じりの生地のワンピースがくしゃくしゃになっていて、なんとも悲しい光景だ。
という私も、ラベンダー色のペンシルスカートは捻れきり、白いブラウスの胸元はだらしなくはだけていた。
うーん、二人してここまでになるのは、珍しい。
お互いずいぶん気持ちが高ぶっていたのだろう。
こういうめちゃくちゃなことも、香苗が結婚したらできなくなるのかなー
ぱちっ、と香苗が目を開けた。
「…なぁに、その愛しげな視線は。」
冗談を言いながらも、香苗もぼーっとしていて、いまいち状況を把握できていない。