お願いだから、つかまえて
「…あー、理紗の部屋だ。なんか懐かしー…」
むくりと起き上がり、ぼんやりと笑う。
「こーいうの、最近なかったよねえ。」
「忙しかったしねえ、あたしも理紗も。」
「お祖母ちゃんが喜ぶわ。」
「こんな不良な行いなのに?」
「あの人こだわりないからねえ…」
「遺伝ね。」
香苗は大あくびをして、ベッドの上の目覚まし時計を見る。
「バーベキュー、12時からだっけ。ちょっと遅れて行ってもいいよね? 火起こしとか男がやるだろうし…お祖母ちゃんに挨拶したい。あとシャワー浴びさせて。」
相変わらず、起き抜けから言葉がよくぽんぽん出てくること。
「あとパック分けて。服も貸して。さすがにこれじゃ行けないわー」
「香苗って、チャキチャキな奥さんになるんだろうね。」
「え? どちらかというと、しとやかなセレブ妻を目指して…」
「ないない。」
「ひどーい」
パンダ目で可愛く口を尖らせても。
あれ?
「バーベキュー?」
聞き流していたけど、そんなワードが。
「えっ、今日だよ! 忘れてたの?」
「…あー…」
佐々木くんの家で集まったメンバーが、梅雨入り前にバーベキューをしちゃおう! と、グループラインで盛り上がっていたのは、そういえば、今日のことだったか。
とはいえ、もう佐々木くんに会うつもりはないし。
「私、パス。香苗は行ってきなよ。服貸すから。」
「え、やだ! なんで? 基本拓哉くんの友達だから一人で行ってもアウェイよ! 婚約のことだって今日言うつもりだし、理紗いてくれないと!」
そう、だよねえ…
「いや、でもなあ」