お願いだから、つかまえて
あーでもないこーでもないと服を選び、お祖母ちゃんがいそいそと用意してくれた朝ご飯を食べ、シャワーを交代で浴び、私のメイク道具でメイクを施し、クリーニング屋に寄って香苗のワンピースを預け、薬局で強力な日焼け止めを買い…
香苗は昨日履いていたヒールのパンプスを、私は佐々木くんに借りっぱなしだった小説を、紙袋へ詰めて目的の河原についた頃には、13時をゆうに超えていた。
火起こしなんて悠長なことはせずチャッカマンと固形燃料で早々に始まったバーベキューは、とっくに盛り上がって、私達が着くと口々に責め立てられた。
これは…確かに来るべきだったのかも、と、昨日一緒に飲み過ぎちゃって〜と悪びれずのたまう香苗を尻目に密かに思った。
佐々木くんはと言えば、期待を裏切らず、よれよれのTシャツを着て、業務用の肉をせっせと処理したり、野菜を長い串に刺したり、ニンニクをホイルに包んだり、貝の食べ頃を逃さず網から引き上げたりと、忙しそうだった。
飲み物も取らず早速山園さんと並んで婚約発表をしている香苗のために、クーラーボックスの中のペットボトルを物色している私に気づかないほど、没頭していた。もはや楽しそうだった。
私は一体何を心配していたのかと、笑いがこみ上げてきて、その気配で、あ、と佐々木くんがしゃがみ込んでいる私を見つけた。
「…焼きそばなんですけど、ソースと塩で悩んでて。どっちが好きですか?」
ふ、と私はついに笑い声を漏らしてしまった。
挨拶も、ないし。気まずさの欠片もないし。
昨日も会っていたみたいな。