お願いだから、つかまえて
「香苗、何飲む?」
しおらしくしていたものの、取り残されてやはり少しつまらなそうな香苗に声をかけた。
「あ、うん。ビール…今飲んだら、さすがにやり過ぎかな。昨日あたしたちはどれくらい飲んだんだろ?」
「とりあえず、浴びるように。」
「いいんじゃないですか、飲めば。」
佐々木くんが口を挟んだ。
「…いっか。」
「ビール太りの花嫁になっちゃう?」
「あーそれ言わないでよ!」
「あ、ご婚約おめでとうございます。」
「ありがとー! 佐々木くんがキューピッドみたいなもんだもんね!」
「…キューピッド…」
似つかわしくない称号を頂いて佐々木くんはわかりやすく居心地が悪そうだ。私はくすくす笑ってしまった。
「パーティーには、佐々木くんも来てね。」
「スピーチとかしなくても良ければ…」
「そこまであんたに求めてないわよ!」
ずいぶんくだけた突っ込みを入れられても、佐々木くんは、はあそれなら、と言うだけだ。
佐々木くんも飲んでいないと知った香苗と私は、サイダーで妥協して、アルコールは控えることにした。
三人で他愛ない話をしたり、皆と混ざったり、二時間くらいは何事もなく過ぎていった。
が。
「…なんか、雲行き怪しくない…?」
誰かが言い出した数分後にはもう、遠くから雷鳴が聞こえてきて。
「まずい、これ降るぞ! 解散しよう!」
皆が迅速に片付け始めるも間に合わず、雨が降り始めてしまった。