お願いだから、つかまえて
どう考えても香苗は山園さんと距離を縮める為に佐々木くんをダシにしているし、私はタイプでなんだか面白い人がいた、と、もう佐々木くんとはそれきりだと思っていたから、
ええっ? と香苗と佐々木くんを見比べてしまった。
山園さんは言わずもがな社交的なので、ニコニコしていて、みんなでラインのアカウントを教え合う流れになった。
それならと、私が感動したあの鶏肉のレシピを教えてほしいと言ったら、その日の夜に丁寧に手順を書いて送ってくれた。
『何か食べたいものありますか? リクエスト受け付けます。』
『んー、まだ寒いし、トムヤムクン! とか!』
『了解です。』
また同じ、変な忍者のスタンプ。
意外と、会話途切れないし。返信早いし。
暇なのかな。ていうか、彼女いないのかな。
とか聞くと、好意を持っていると思われそうで、聞けないでいる。
そんなことを思われたら困る。
困る。
だって。
ーースマホの画面が突然切り替わった。
『矢田修吾』
名前が表示されて、呼び出しのマークが映し出される。
邪な心が見透かされたみたいで、私はギクッと肩を強張らせてから、さり気なく通話マークをタッチしてスマホを取った。
「もしもし?」
「あー、ごめん今戻ってきたところでさ。ちょっと会える?」
「うん、いいよ。お昼は?」
「おにぎり食った。」
「矢田さんですか〜?」
再び友理奈ちゃんが顔を上げて、にんまりとして私を見た。
私は肯定の代わりに苦笑を返して、最後の鶏肉の一切れを口に突っ込み、慌ただしくお弁当箱を片付ける。
「どこ行けばいい? うん、うん…」
「愛されてますねーえ」
友理奈ちゃんの冷やかしを背中で聞きながら、私は食堂を後にした。
ーーそう、困る。
だって、私には彼氏がいるから。