お願いだから、つかまえて
「雲厚いな。これは、やまないね。」
香苗が唯一の小さなビニール屋根の下から空を見上げて言った。土砂降りだ。
女性陣はこのテントの下で身を寄せ合うようにして、ゴミのまとめや片付けなどをしている。
男性陣は椅子や余った食材、クーラーボックスなど、重いものを運んで、佐々木くんの車に次々に詰めていっている。
最後にはこのテントも片付けなくてはいけないから、どちらにしろ、私達も濡れる運命ではある。
佐々木くんが無念にもここの調理スペースを離れなくてはいけなくなったので、私が引き継いで、残った塩焼きそばを色んな容器に詰め、テント内の皆に配っていた。
「まあまた集まればいいよ。香苗ちゃんたちのパーティーでまた会うしね!」
誰かが陽気に言えば、他の人も笑顔で頷く。やっぱり皆、いい人たちだ。
「鉄板とか、もういい?」
男の人たちがずぶ濡れで駆け込んできて、テント内の物も運び出していく。入りきるかなあの車に? という声が聞こえたので、佐々木くんの車はもうパンパンらしい。
「じゃあテント片付けます。女性の皆さんは急いで帰って。」
また男性の一団が戻ってきて、その中の佐々木くんがそう言った。
水も滴る…じゃないけど。
雨に打たれて頭から濡れている佐々木くんには、いつもよりなんだか色香が漂っている。
う。目に、毒…
私は目を逸らして、皆と同じように荷物を抱えて、テントを出ようとした時。
「あ、理紗さんは僕が送ります。近いので。席が荷物で埋まってしまって他の皆さんを送れないのが申し訳ないですけど。」
「え、いや、私は大丈夫…」
「そうしてもらいな理紗! まあ車に着くまでにも濡れちゃうと思うけどさ。」