お願いだから、つかまえて
香苗にまで言われて、頑なに断るのも逆におかしな空気になりそうで、ためらう。ていうか私の荷物、半分は佐々木くんの本だし。
「…じゃあ、お願いします。ありがとう。」
バラバラッと一気に皆が散っていき、香苗もまたね! と走っていった。
「俺らで片すから、佐々木くん、先に理紗ちゃんと行ってな! 車の場所わからんだろ。」
兄貴肌っぽい人に言われて、ああ、と佐々木くんが頷いた。
「そうですね、じゃあ」
というわけで、佐々木くんと二人で雨の中に走り出した。
河原を抜けてすぐの公道に見覚えのある車が停めてあった。
「すみません、シート濡れちゃいますけど…」
「いやどっちにしろ僕が濡らすので。」
「それはまあ。」
「ちょっとここにいて下さい。あのテントのスペース確保しないと…」
佐々木くんは私を助手席に乗せてから、自分はぎゅうぎゅうに詰まっている後部座席の荷物の一部を端に寄せている。
そうしているうちに、二人の男性がバラしたテントを運んできて、佐々木くんが作ったスペースに突っ込んだ。
「じゃあな、残りの奴らも帰ったから。悪いな佐々木、よろしくな!」
「いえ、じゃあお気をつけて。」
「ありがとうございました、また!」
全部済んで運転席に落ち着いた佐々木くんは、さすがに大きく息をついた。
「参りましたね、予報じゃ一日晴れだったのに。」
私はハンドタオルを手渡して言う。ハンドタオルじゃどうにもならないけど。
佐々木くんはそれで眼鏡を拭き、濡れた髪をなでつけるように横に持っていき、視界を確保している。
肌に貼り付く服が気持ち悪いのだろう、袖を肘の上までまくり、筋っぽい腕を出している。