お願いだから、つかまえて
うう。なんか、やっぱり色気ある。
私は苦労して佐々木くんから視線を引き剥がした。
一ヶ月以上も前に入れた私の家住所を、佐々木くんが迷いなく空で入力し終えたナビを見て、あれ、と思った。
「佐々木くんち付近、通過しちゃいますね。いいです私、佐々木くんちの最寄り駅で降ろしちゃってください。」
「いやだめですよ、大したロスでもないので気にしないで下さい。」
私の言うことなんかどこ吹く風で発進する。
私は慌てて言い募った。
「ロスですよ、ダメダメ。一刻も早くお風呂に浸かって暖まらないと、本当に風邪引きますよ、そんな濡れてたら。」
「理紗さんこそそんなセクシーな格好で電車に乗るつもりなんですか?」
進行方向から目を逸らさずにそんなことを言い放ってくる。
セクシーって。佐々木くんの口からまさかそんな言葉を聞くことになるとは。
ていうかセクシーなのは、そっちだから。
じゃなくて。
自分の胸元を見下ろしたら、オフホワイトのTシャツから、薄いピンクのブラがくっきりと透けているのだった…
「………」
だから、佐々木くんを見過ぎなんだって。
普通真っ先に心配するの、こっちなんだって。
自分で自分にガックリした。
「…いや、でも…」
こんなびっちょびちょになっている人に、そこまでしてもらうのはあまりにしのびない。
「…じゃあ、折衷案で。」
私が口を開いたり閉じたりするだけの沈黙を、佐々木くんが破った。
「一旦、僕の家に寄って着替えてもいいですか。」
「あ…はい。」