お願いだから、つかまえて
このまま、また抱かれるんだろうか?
たった一回の情事を身体が覚えていて、こうして触れられて、期待して。
身体の芯が疼いて疼いて、もっともっと、と佐々木くんを求めている。
佐々木くんの手はどんどん私の身体を蹂躙していくけれど、私の心は、一体何処にあるんだろう。
修吾の彼女でいるって決めたのに、身も心もこの人にどんどん惹かれていく。
だけどこの人は私の心なんか欲しがってくれない。
だからといって身体ばかりの関係を求めているわけじゃないと言う。
私の心は宙ぶらりんだ。
快楽に染め上げられて、朦朧としてくる意識が、それでもどうしようもない虚しさを取り残していく。
このまま何もかも忘れて抱かれてしまえば、どんなに楽だろう。
だけどそれじゃ、前と同じことの繰り返しなんだ。
自分が最低な女だってことを、思い知るだけ。
「…え」
佐々木くんが唐突に手を止めた。
めくれ上がっていた服がすとんと元の形に落ちる。
あ、珍しく、動揺してる。ぼんやり思った。
眼鏡の奥で瞬きを繰り返して。
「…ごめん、なさい」
謝った。
どうして謝るんだろう。無理矢理犯そうとしたわけでもないのに。
「…泣かせたいわけじゃ…」
私の頬に手を添えて、困惑が滲む声で言われて、初めて自分の涙に気がついた。
「ごめん。」
私は首を振る。
「…違うの、ごめんなさい。困らせてごめんなさい。ただ…」
ただ?
ただ、何?
言葉が続かない。
「…ごめん、忘れて。食べたら、送るから。」
忘れていいの?
忘れられるわけない。
そう思うけれど。
雨はまだ止まない。