お願いだから、つかまえて
8. 好きな人は
香苗と山園さんのパーティーの日は、よく晴れた。
会場は1階部分がカフェになっており、2階はレンタル用に開放してある、広々としたベランダ付きのスペースだった。
7月に入っているし、暑いかもしれないからと、ガーデンパーティーは諦め、ベランダ付きにした、と香苗は言っていたけれど、
気温はそこまで上がらず、ベランダに面した窓は開け放され、明るく気持ちの良い雰囲気に仕上がっていた。
私は朝から会場入りして、飾り付けやら、香苗の髪のセットやら、手伝いで忙しくしていて、
主役の二人が招待客と混ざった段階になり、ようやく一息ついた。
お昼も食べる暇がなかったし、ケータリングのビュッフェ式の料理はとても美味しそうだけれど、まだ一口も食べていない。
とにかく食べよう、と一人でお皿に乗るだけ乗せて、今のところ無人のベランダに出た。
疲れていたけれど、椅子がいくつかあるにしろ、基本的には立食形式だったので、手伝いの身で座るのも気が引けた。
「はあー、疲れた。」
「…お疲れ様です。」
テーブルにお皿を置き、ベランダの柵に寄りかかって一人で大きな息を吐きながら零したら、返事があった。
「…え。」
かなりびびって声のした方を見たら、佐々木くんだった。
「ちょ、気配殺さないで下さいよ…」
室内からは見えない、角っこに彼は一人で佇んでいたのだった。
「よく存在感ないって言われるから、そのせいじゃないですか。」
陰から出てきて、歩み寄りながらそんなことを言う。
今日はさすがにちゃんととした真っ白い細みのシャツを着ていた。パンツも少し光沢感のある、濃いグレー。意外とと言っては失礼だけど、どちらも洗練されたデザインの、それなりに値段が張りそうなものだった。
眼鏡はいつものだったけど、髪は少し切ってさっぱりしていた。