お願いだから、つかまえて
会議室のドアを開けると、長いテーブルに、修吾が突っ伏していた。
「おつか、れー…?」
寝ているのかな、と自然とひそひそとした声になった。そばに寄って屈むと、急に腕が伸びてきて、あっという間に腰を引き寄せられた。
「あー。生き返る…」
私のお腹に顔を埋めたままくぐもった声で修吾が言った。
「ちょっとー。お腹の肉気にしてるんだからやめてよ。」
私は文句を言いながら、彼の頭を撫でる。
「俺好きだよ。理紗のふにふに肉。」
「ふにふにって言わないでくれる?」
修吾が肩を震わせて笑い、顔をお腹から離して私を見上げた。
「ごめんな、どうせ昼休み終わったら顔合わせるのに。でも触りたくてさ…」
鷹みたいに鋭い顔つきをしているのに、修吾は甘えん坊だ。
社内の誰も、営業部切ってのエースの矢田修吾がこんな一面を持っているなんて、思いもしないだろう。
「ううん、大変だったんでしょ。うまくいった?」
「もー、ほんとに嫌になる。あのガンコ親父…でも、あともう一押し。」
「お疲れ。」
いかにも仕事ができそうな、奥二重のきらりと光る目、短く切り揃えられた黒髪、大学までサッカーをしていたという大きな身体にぴったりと合ったセンスの良いスーツ。
会社を出たり入ったり、颯爽と歩き回るその姿には、他の部署ではファンが多い。
だけど営業部では…他人にも自分にも厳しい彼は、どちらかというと恐れられていた。