お願いだから、つかまえて

「…なんか、久しぶりですね。」

なんとなく訪れた沈黙の中で、佐々木くんがためらいがちに口を開いた。

「…そう、ですか?」

前回とその前の方が、期間は空いていたけれど。
柵に背を預けて、俯いて、佐々木くんは苦笑した。

「…僕には、結構…」

最後の時は、一緒にお好み焼きを食べて、佐々木くんは宣言通り車で家まで送ってくれた。
私はすぐに泣き止んでいつも通りにしていたつもりだけれど、佐々木くんのほうが明らかに動揺していて、出会ってから初めて、会話が弾まなかった。

それでも、それじゃあまた、とさらっと言って別れたけれど。

たぶん…気に病む期間にしては、長過ぎただろう。

「こないだ…」

佐々木くんが言いかけて、また黙る。

「佐々木くんは何も気にすることないんです。泣いといてあれですけど。ごめんなさい、本当に。私自身の問題だから。」
「その、問題っていうのは…あ。」

大事なところで、佐々木くんは私を見て、何か全く別のことに気づく。

もう。先が気になる。
と思っていたら、手が急に伸びてきて、首の後ろに回った。

「えっ?」
「ちょっと、じっとして。花びらついてる…」

ああ、さっきの。
フラワーシャワーだ。大量の花びらをマシンにセットしたのも私だし、どこかのタイミングでついてしまったんだろう。

髪に埋もれて見づらいようで、佐々木くんは片手で眼鏡を抑えながら、屈んでしきりに覗き込んでいる。

「あ、取れた。」

そう言って、立ち尽くしている私から手を引っ込めようとして、ふと、
そのまま、うなじに指先で触れて、留まった。
たったそれだけで、私の肌は歓喜で震えそうだった。
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