お願いだから、つかまえて
そのままの姿勢で、佐々木くんが私を見下ろして…だけど、私の目は見ないで、長い睫毛を伏せて、何かやっぱり、迷っている。
「理紗さん、…僕は、」
「理紗」
佐々木くんの小さな声を、固い声が遮った。
ぱっ、と二人してそちらを向くと。
「…修吾。早かったね。」
「…あ。」
佐々木くんが我に返ったように私の首元から手を抜いた。薄いピンクの花びらがはらりと落ちた。
「早い? 16時には着くって言ったろ。」
「あ、もうそんな時間…」
修吾がつかつかと歩いてくる。今のを見られていたから当然疑念を持たれるわけだけど、私の心は何か一つ機能を取り落としたみたいに、静かだった。
花びらを取ってもらっていただけだと言えば、床の花びらがそれを証明してくれるし、浮気したんだろうと言われれば、それも事実だ。
強張った顔の修吾が威圧的に佐々木くんを見下ろす。少し、修吾のほうが背が高いし、ガタイもいい。
「誰?」
態度、悪いなあ。仮にも営業職の人なのに。
佐々木くんは怯えも焦りもしないけれど、居心地が悪そうだ。
二人が対面して初めて気づいた。というか今までそんなこと考えたことがなかった。
二人は絶対、そりが合わない。
「佐々木怜士さん。山園さんの会社の方で…佐々木くん、こっちは」
「矢田修吾です。理紗の彼氏の。」
…大人気ない!
ーーなんて言う資格は私だけには絶対、無いに決まっている。
佐々木くんも佐々木くんで、はあどうも、佐々木ですとかぼそぼそ言っていて、態度は良いとは言えないけれど、こちらは通常運転だ。
だけど修吾にはカチンとくるだろう。