恋のお試し期間
「俺、普通じゃないかな」
「お兄ちゃんは心配性すぎ。そんな風に言ってくれなくてもちゃんと相手見つけます。
大丈夫。あの裕樹だって可愛い彼女みつけてるんだもん、私だってそれなりの人」
「その度に君は傷ついてる。もうそんなの見つけなくていいよ。俺がなるから」
「どうしてですか?そこまで同情してもらわなくても自分で見つけられますって」
確かに女としてはギリギリのラインに居るけれど。
そんな優しい同情をしてくれなくても時間が立てば立ち直る。何より、
このダイエットに成功したらきっとまた新しい恋が出来るはずなのだから。
「同情なんてする訳ない。俺はそこまでお人よしじゃないよ。
君は俺がみんなに優しいお兄ちゃんだと思ってるけど。そうじゃないから」
「え」
「里真ちゃんの傍に居たいだけの男。嫌われたくない下心いっぱいだよ。
一生懸命アピールしても君は他の男ばかり見てるから。ちゃんと話をしようかなって」
佐伯は立ち止まり此方をきょとんとした顔で見ている里真を見つめる。
「佐伯さん?」
「その呼び方も好きじゃない。前みたいに慶吾って呼んでくれないかな」
「あ。分かった。実はドッキリ何でしょ?もうイジワルだな、早くネタバレしてください」
「残念だけど違うんだよね」
「……」
あれ?これってどういう展開?里真の頭がパニックになってきた。
いや、もうなっている。混乱しすぎて変な汗まででてきた。
告白されてる?え?本気でされてる?なにこれ?
「そんなに疑うなら試しに付き合ってみようか。それで本気って分かるでしょ」
「そうですけど。でも、私」
「はーい。それでは今からお試し期間開始!」
「え。え」
ちょっと声を張り上げてそんな事を言うから里真は驚いて隣の彼を見上げた。
佐伯は少し嬉しそうに笑っている。これは彼の本当の言葉なのだろうか。
理想といっていいくらい優しいお兄ちゃんが自分を想ってくれるなんて。
同情とかでなく、本当に。真面目に。
そんな事ってあるのだろうか。これは夢?
「そうと決まればさっそく手を繋いで行こう」
でも彼から伸ばされた手はしっかりと里真の手を握る。
「は…はい」
「キスしたいけど、行き成りそれは無理そうだしね」
「無理です!」
「だよね。分かってますとも。理真ちゃんはキスにも理想があるものね」
「……」
そういえば何時ぞやフラれた時に彼に愚痴ったっけ。
理想の彼氏と理想のキスについて。顔をちょっと赤らめつつ歩く。
何だろうこの感じ。何でこんな展開になってるんだろう。
そんな前触れ今まで1回もなかったのに。どうして?
混乱しすぎて何も言えないでいる里真をよそに
彼女の手をしっかりと握りしめた佐伯はご機嫌に歩いて行く。