恋のお試し期間
「高校を選んだのも朝電車で一緒になるからだ。体を鍛えて別人になっても
やっぱり踏み込めなくて。俺には見ていることしか出来なかった。
何度か勇気を出して手紙を書いても返事は無かった。
まあ、慶吾に託してたからどういう処理をされてたかはわからないけど?」
今度は少し不機嫌そうな顔。
「あの…電車に乗ってたんですね」
「寝坊の常習犯なのか何時もギリギリに乗ってくるからハラハラしたよ。
せっかくこっちは早起きして来たのに。見えるのは朝だけなんだつまらないだろ」
「もしかして、何時も……赤と青のヘッドフォン付けて…ませんでしたか」
「すごいな。お前、占い師か何かか?」
「……」
「おい」
「……」
「なあ。何だよいきなり」
黙っていても話を続けていたのに今は此方を向いて、
里真が何故知っているのかを聞きたいようだ。
「……それは、その」
「何でだ。カンか?」
「……」
「教えろよ日野。俺はちゃんと話をしただろ。教えてやったろ過去をさ」
「…それは、……それは、…その人に憧れていて、その人をずっと見てたからです」
「へえ。そうなんだ。俺の事好きだったんだ」
「そ、そうらしいです…」
変な会話だけど。はじまる沈黙。そして。
「はは。…ははは…はははははははははははははっ」
唐突に始まった笑い声に里真だけでなく遊んでいた子どもたちも驚き
急いで母親の元へ逃げていった。