恋のお試し期間
「あ。あれ。もうこんな。ご、ごめんなさいっ」
「やっぱりまだ調子悪いの。それとも何か悩み事?」
「へ」
「何回か声かけたけど君は返事をしてくれなかったからさ」
傍に座っている佐伯は心配そうな顔。
「そう、でした?ごめんなさい。ちょっと考えてて」
「何をって聞いたら怒る?」
「……」
「…そっか」
里真の無言の拒否にお互いに視線を逸らす。
「…じゃあ、私そろそろ」
「送っていくよ」
「でも」
「それもダメって言うの」
「……いえ。お願します」
「裏で待ってて」
あまりにも彼が寂しそうな顔をして言うから。里真は頷いた。
先に外に出て車が置いてある店の裏手で待つ。
少しして着替えた佐伯が来て一緒に乗り込んだ。
車なら家まであっという間。
それはもちろん、すぐに彼がおろしてくれればの話しだが。
「はい到着」
「ありがとうございます」
「いいよ。君と少しでも長く居たいからね」
「じゃあ。また」
「うん」
思ったほど引き止められることはなくシートベルトを外しドアを開ける。
「里真」
外へ出ようとしたら寂しげな声がして。視線を向けると此方を見つめる彼。
強引に触れることはないけれど。でもその表情は切なくて。
一端乗り出した身を戻し彼をちゃんと見た。
「大丈夫ですよ。もう調子ばっちりだから。だから、そんな辛そうな顔しないで」
「そう。でもね、里真。君の意識の中に俺が居ないと思うと辛くてね。
俺の傍に居てくれても君は違う事を考えている。すごく悲しい気分だ」
「あ」
「怒ってるんじゃないよ。悲しいだけだから」
「すいません」
「謝って欲しいわけじゃない。ただ、君に意識されたいだけ」
佐伯はそっと手を伸ばし里真の頬を撫で。
「慶吾さん」
「君に意識されないなんて生きてる意味ない」
「そ、そんな大げさな。してます。私の中で慶吾さんはちゃんと居ます」
「そう?どこに居るのかな。教えて欲しいな、…ね。里真」
囁くように言うと両手で里真の頬を優しく掴みそっとキスする。
「貴方は私に隠してる事は無いですよね」
「どういう意味?」
「皆、私の知らない顔を持ってた。皆。だから、貴方もあるんじゃないかって。
好きって思えば思うほど怖くなっていって。聞けなくて。不安になって。
でも……もし、貴方も何か知っているのなら。私…は」
どうしたらいいか分からなくなってしまう。
きっと今のこの幸せを甘受できない。