恋のお試し期間



「裏の顔の事は前にも言った通りだけど」
「私、矢田さんと話をしました。昔の事を」
「……」
「あの時何があったんですか。何をしたんですか矢田さんに」
「何もしてない」
「本当に?じゃあどうしてあんな風に。兄弟みたいな関係だったんでしょう?」

その間がこじれるには何か大きな事が起こったはず。

「やっぱり里真の中に居るのは俺じゃないんだね」
「それはもう過去ですから。私はちゃんと慶吾さんが…好き」
「さっきから君は彼の事ばかりだ」
「違います」
「そう?まあ、君がそう言うのならそうなんだろうね。きっと」

にこりと笑い里真の頭を優しく撫でる。

「どうして皆内緒にするの。私だけのけ者にして」

それがはぐらかされたみたいに感じて。悲しくなってくる。
三波も結局話をしてくれなかった。
裕樹も何かありそうだし佐伯との因縁については矢田も話してはくれなかった。

無理にこじあけてはいけない扉なのかもしれないけど。

その扉が存在すると知ってしまった以上、里真はもう見逃せない。

「君は何を見ている?何がしたい?教えてくれないか」
「私は…貴方との未来を考えて」
「考えて…、ね。それでどうして過去に拘るの?そんなに必要な事なのかな」
「そうですけど。でも」
「何処を振り返ったって君が傷つくような事は無い。それでもまだ過去に、
彼に拘るのならやっぱり君は彼が好きなんだって事になってしまうね。里真」
「……」
「認める?いいよ。それでも」
「良くないです。…仮にも、彼氏なんですから」

怒ってくれとは言わないけれどでもそんなあっけないのも嫌。

「俺は君を束縛したりしないよ。ストーカーみたいな目で君を見つめたりもしない。
気持ちを押し付けたりもしない。里真の人生を優先させる。これからもそうだ」
「慶吾さん」
「と。いうことで、またフラれたんだね。俺。いいけどさ」
「だから違いますって。慶吾さんが好きです!大好きです!」
「へえそうなんだ。無理に言わなくてもいいよ?」
「だ、だから。け…慶吾さんが居てくれたらもうそれでいいです!いいですから!」
「いいから何?」
「わざとですよね慶吾さん。分かってて意地悪を」
「本当に分からないよ里真。君の気持ちは何処にあるの」
「…ここにあります」

そっと手を伸ばし佐伯の手を握り自分の胸へ当てた。
胸を触らせるのは緊張するけれど。自分からしておいて顔を赤らめる里真。
そんな彼女に覆いかぶさるように移動し佐伯が耳元に唇を近づけてきて。

「すごいドキドキしてる。…ここに俺も居るのかな?」

優しく囁いてきた。

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