恋のお試し期間

やばい。どうしよう。こまった。こわい。

「あ…ぁの」
「里真は俺を選んだんだろ?他の誰でもない、俺をさ」
「……」

怒っている表情では無かった。けど、何時もの優しい笑みもない。
無感情のような冷たいものほど恐ろしいものはないのだと思う。
どうしよう、怒らせるつもりはなかったのに。こんなはずじゃなかった。

でも嫌がったり叫んだりしたらやっぱり誰でも怒るだろう。

「今更泣いても許さない……、そうだな、笑える面白い事言ったら許そう」
「……え。…も、もー!慶吾さん!」

涙ぐむ里真だが佐伯はちょっと満足げに笑ってオデコを付き合わせた。

「あははははは。ごめんごめん。ちょっと意地悪してみた。許してくれる?」
「キスして」
「もちろん」

そのままキスをしてやっと里真も彼の首に手を回す。

「慶吾さんがじゃなくて…本当に恥かしいんです。そういう経験ないから」
「分かってる。里真は何もかもが初めてだものね。だからこそちょっと意地悪」
「ひどい。本当に怒らせたかと思って」
「俺だって人間だから、嫌な気分にもなるし腹が立つことだって沢山あるよ。
だけど君には見せないし大丈夫だからね」
「そ、そうなんですか?…全然安心出来ない」

寧ろ怖いような。

「あれ?…怒らせるような事、するつもり?」
「ないない!しません!」
「もう待てできないよ里真。早く体を洗って風呂に入ってベッド行こう」
「はい」
「俺に大人しく洗われるんだよ。いい?」
「は…はいっ」


何度目かの覚悟を決める。

里真はぎゅっと目を閉じた。

その間に髪と体を丁寧に洗われて
顔を真っ赤にしながら湯船に浸かる。もちろん佐伯の膝に座り。
緊張しすぎてもう何がどうなったのか記憶が無い。心臓が痛い。



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